日本を代表するミクソロジスト南雲主于三が語る'焼酎のこれから' ―― ミクソロジスト 南雲主于三

インタビュー:南雲主于三

日本を代表するミクソロジスト南雲主于三が語る"焼酎のこれから" ――
ミクソロジスト 南雲主于三

カクテルの世界において調合の芸術ともいわれる「ミクソロジー」。英語の"混ぜる"を意味する「ミックス」と"~論、~学"を表す「ロジ―」とを掛け合わせた名前からもわかるように、ベースとなるお酒に、フルーツやお茶、カカオなど様々なものをミックスすることで既成概念を超えたカクテルを生み出している。様々な食材をお酒と結びつけたミクソロジーだが、リキュールやスピリッツといったベースとなるお酒自体にも影響を与えており、今回の主役である焼酎もまたこれまでとは違った魅力を発揮しはじめている。

東京を代表するオフィス街のひとつ虎ノ門ヒルズビジネスタワーにあるバー「memento mori(メメントモリ)」を訪ね、日本のミクソロジーをけん引する南雲主于三さんに焼酎の魅力や食材などとの相性、おすすめの銘柄などについて聞いた。

衝撃を受けた一冊の本との出逢い

- 南雲さんとミクソロジーとの出会いは。

私が21歳の大学生当時、バーで働いていまして、その時にベン・リードの『クール・カクテルズ』の和訳本が出たので買って読んだところ、世の中に「こんなカクテルがあるのか」と衝撃を受けました。例えるなら古典的なアート作品にずっと触れてきた時に、いきなり現代アートに出会う、そんな気分でした。自由に作風や素材を選べ、クリエーションに関してもこうしたほうが良いといったガイドラインみたいなものが無くなったわけです。言うなれば、クリエーションもまたミクソロジー。私の目の前にある世界がパッと開けたように感じましたね。

- 焼酎との関わりが深いと聞きましたが、どのような経緯で積極的に扱うようになったのですか。

これは段階を踏んで扱うようになったので順序だてて話しますと、カクテルの可能性を追求しようと2009年に自分の会社を立ち上げ、試行錯誤を重ねていきました。遠心分離機や真空調理機、スモークガンなどの機器も我々がいち早く揃えたことで日本中からバーテンダーが集まり、新たなものを生み出すことができると同時に、人のつながりも生まれ、異業種との勉強会をスタートさせました。クラフトビールやお茶、香料の専門家らと一緒に研究を重ねていったのです。

その後、日本文化をテーマにしたカクテルの店をつくろうと思い、まずは「GINZA SIX」でお茶をテーマにした店舗をはじめました。テーマを絞ったことで専門性の追究が欠かせなくなったことから、この「memento mori」ではカカオやボタニカルを追究するなど、今は店舗ごとに明確な意図をもたせています。こうした流れで、焼酎や泡盛、国産スピリッツを主に扱う店舗を18年からはじめたのです。このお店をきっかけに蔵元さんたちとも深く関わるようになり、今では酒造組合さんからの仕事や、宮崎県の焼酎のプロモーションの監修など積極的に関わるようになっています。焼酎をバー業界にどう広めるか、カクテルにどう広げていくかも私の役割だと思っているのです。

焼酎はこれから花が咲くお酒

- 深く関わることで焼酎の新たな魅力は発見できましたか。

焼酎は07年くらいに第3次ブームが終わっており、今も売れている焼酎がある傍ら、ブームの時になぜ売れたかを分析できなかったことで、改善するポイントがわからず今も苦しんでいる蔵元さんがあります。その一方で、変化も起こっていまして、焼酎自体も新しいものが生まれてきましたし、ラベルなどのパッケージも垢抜けたものが増えるなど、これまでになかった動きがあります。

例えば松露酒造の「試験栽培ベニマサリ新原酒」は、おしゃれなボトルですがアルコール度数は37%と高め。従来ならこんなに強い焼酎だとお湯割りで飲めないよ、となってしまいますが、ソーダ割やカクテルには向いています。香りが強いこともソーダ割に向いており、蔵元さんたちもこうした飲み方の提案を行いはじめています。そういう意味で、焼酎はこれから花が開くお酒という感覚でいます。

- 焼酎の新たな魅力に対して、お客さんの反応はいかがですか。

いいですよ。ただ焼酎は、なんでも合うわけではありません。例えば、芋焼酎は甘さとの相性が良く、辛口なものとは相性がよくありません。一方で麦焼酎は香ばしく、麦チョコっぽいとよく言われますが、パンに塗って美味しいものはなんでも合うと思います。他にも米焼酎や粕取り焼酎は果物との相性がよく、蒸留して最初に出てくる初垂れ(ハナタレ)はバナナの香りがするので、ジンとブレンドしても美味しいですし、ウォッカと混ぜても美味しい。私としては、パンの例えもそうですが、味の個性や捉え方、実際の組み合わせまで言葉として表現することで、感覚を楽しんでもらおうと考えています。

- おすすめの焼酎の産地はどこでしょうか。

新しい焼酎が生まれているといえば鹿児島、次いで宮崎でしょうか。鹿児島は蔵の数が多いこともありますが、小さい蔵元さんもよく工夫をされています。なかでも、3万石(一石=180ℓ)くらいの中規模の蔵元さんは研究員もいますから新たなお酒の研究を行っていますし、ウィスキーやジン、日本酒など他のジャンルにも進出するところもあるなど、頼もしい蔵が多いですね。

- 具体的におススメの蔵元さんを教えてください。

鹿児島の日置市にある小正醸造さんや西酒造さん、いちき串木野市の濱田酒造、この3蔵は勢いもあります。小さい蔵だと霧島市の中村酒造場さん、垂水市の八千代伝酒造とかが魅力的です。宮崎ですと高鍋町の黒木本店さん、串間市の松露酒造さんがおもしろく注目しています。

- もし、九州に行かれたとしてどんなところを楽しんでもらいたいですか。

鹿児島に行かれるのでしたら地元の名物である鶏の刺身を頼んでいただき、芋焼酎と合わせていただきたいですね。焼き鳥でも塩焼きよりは向こうの甘い醤油を使ったタレとの相性がいいので、焼酎や泡盛のソーダ割とよく合うと思います。おもしろいもので、地元の食は地酒と合うようにできています。また、私は九州をよく自動車で移動するのですが、例えば福岡から南へ向かうと車窓から見える山の植生が少しずつ変わっていくのがわかります。九州の自然、景色をぜひ満喫していただきたいですし、温泉も多いので満足してもらえるはずです。

そんな九州で近い将来、焼酎版のオクトーバーフェスをやりたいと考えています。10月、11月かな、まさに蔵元さんたちが焼酎を仕込んでいる時期にメインとなる会場では各地の焼酎を飲みながらアーティストのフェスを楽しんでいただき、九州各地の酒蔵でもツアーを組んで景色や温泉を楽しみながら蔵元を訪ね、焼酎の豊かな味わいを堪能してもらう、そんなイベントができればと考えています。